ローグライクゲームを面白くするための3つの心得 2/3

第2回のこの記事では、
「リスクリターン」についてです。

第1回から読んでない方は、第1回から読むことをお勧めします。
ローグライクゲームを面白くするための3つの心得 目次

「リスクリターン」とは

「リスクリターン」「リスクとリターン」「リスクとリワード」などといった言葉は、ゲームの面白さを説明しようとするときによく耳にする言葉かと思います。

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概ねこれらの意味と同じではありますが、
私は「リスクリターン」という言葉を次のように定義して使っております。

【リスクリターン】
遊び手の意志で、リスクに向かってリターンを得る挑戦

「遊び手の意志で」

また、
「遊び手の意志で」
というところも大事だと思ってます。

つまり、
危険を冒さないという選択もできるのだが、任意で(=遊び手の意志で)危険を冒させる
としてほしい。

では、任意ではなく、強制的だとどうなるか。
任意ではなく、強制的に大きなリスクに向かわせると、なぜだか楽しさが下がるんですよね。
あと、それで突然ゲームオーバーにさせられると、遊び手は不満を感じます。
おそらくこれは、失敗を覚悟させる前にゲームオーバーにさせられるから不満を感じるんだと思います。
一方で、自分の意志で挑んだなら、挑む前に失敗を覚悟しているので、失敗しても許せるんですよね。

具体例

前回、「リスクリターン」の例として、マリオのBダッシュの例を1つ紹介しましたが、
更に3つほど具体例を紹介します。

ウィッチタイム(ベヨネッタ

ベヨネッタ』(2009)

これは、敵の攻撃をギリギリで回避することで発動し、一定時間自分以外がスローになり、攻撃のチャンスが訪れるというものです。
「パリィ・カウンター」の一種ですね。

ただし、こういう「パリィ・カウンター」系は、それをする理由・動機がないとあまり使ってもらえない気がします。
例えば、ベヨネッタでは、パリィを使ってスピーディに敵を倒すことが、リザルト画面で高い評価を得ることに繋がります。

呪われた宝箱(Dead Cells)

『Dead Cells』(2018)

道中でたまに見つかるのが、この「呪われた宝箱」。
呪われた宝箱を開けると、たくさんの報酬が手に入る代わりに、プレイヤーは「呪い」という状態異常になります。

「呪い」状態の間は、何らかのダメージを受けると即死してしまいますが、
プレイヤーの頭上にカウンターが表示されており、その数だけ敵を倒すことで呪いを解くことができます。

もちろん、その宝箱を開けるかどうかは任意です。腕に自信がないなら、開かない方がいい。
これもリスクリターンですね。

大連鎖を狙う(ぷよぷよ

ぷよぷよeスポーツ』(2018)

リスクリターンは、いろんなジャンルの、思いもよらないところに潜んでいるものです。
そして、落ちものパズルの「ぷよぷよ」も例外ではありません。

ぷよぷよでは、大連鎖になるほど、敵におじゃまぷよを送ることができます。
大連鎖を狙おうとするほど、高くぷよを積む必要がありますが、それはゲームオーバーになりやすいというリスクを冒していることでもあります。
大きなリターンを得るために、リスクを冒している。もちろん、「任意」で。
なので、これもリスクリターンだと考えれます。

「リスクリターン」の効果

「リスクリターンを作れば楽しくなる!」といってしまってもいいのですが、「なぜリスクリターンを作れば楽しくなるか」というところまで考えてみましょう。

私は、「リスクリターン」によって次のような効果が生まれ、楽しくなると考えました。

  • 遊び手の意志でリスクに向かわせることで、「やられるかも」という予測をさせやすくなり、緊張感が高まりやすい
  • 成功時、リスクが消えることで、それ自体が気持ちいい(緊張が緩和される気持ちよさ?)
  • (失敗と成功で差が激しいため、)「コントラスト」も生まれる

特に「緊張感」が生まれるというのが、最も注目すべき効果でしょう。
これにより、リスクリターンがあるだけで、ゲームは面白くなっていきます。

また、前回の記事でも少し触れましたが、リスクリターンは「コントラスト」も作ってくれます。

余談①:リスクリターンが適用しやすいゲーム・適用しづらいゲーム


※少し長い余談が2つ続きます。書きすぎました。読み飛ばしてもらっても結構です。


前述の通り、「自分の意志で挑んでいる」と思わせることが、リスクリターンでは大事なんですが、

そう思わせるためには、
「その任意の挑戦をしなくても、クリアできた(その目標を達成できた)かもしれない」
と思わせることが重要なのではないかと思っています。

なぜなら、
そう思えないと、
「任意で挑む」
というより、
「絶対に(強制的に)挑まなきゃいけないもの」
という意識になってしまうからです。

以上のことが正しいとすると、
リスクリターンが適用しやすいゲーム・適用しづらいゲーム
が見えてきます。

高難易度で、状況が毎回固定のゲーム

クリアを目指すだけでも高難易度で、状況が毎回固定のゲーム。
例えば、ダークソウルやCelesteのようなゲームです。

DARK SOULS III』(2016)

このようなゲームでは、リスクリターンは適用しづらい(適用しても、効果が薄まりやすい)ように思えます。

それは、次のような理由のためです。

  • 高難易度であるため、もともとリスクリターンの行動を取ることがクリアするための前提となりやすく、「任意」ではなく「強制的に」その行動を強いられている意識になりやすいから

もちろん、上手くデザインすれば、「任意」で挑ませていると意識させることもできるかもしれません。
(高難易度とはいえ、全てのリスクリターンの行動がとれなくてもクリアできるぐらいのゆとりを持たせておくとか)
しかし、基本的には、リスクリターンを適用しづらいゲームでしょう。

(高難易度の)ローグライクゲーム

一方で、
高難易度でも、状況が固定じゃないローグライクのようなゲームでは、運要素によるバラつきがあり、リスクを冒さなくてもクリアできる可能性もあると期待するからか、「任意で挑んでいる」という感覚が強まりやすい気がします。

つまり、リスクリターンを適用しやすい。

クリアが簡単なゲーム

では、クリアが簡単なゲームではどうでしょう?
結論から言うと、ダークソウルのようなゲームよりも、クリアが簡単なゲームの方が適用しやすいように思えます。

クリアが簡単なゲーム(または、中難易度ぐらいのゲーム)は、言い換えると、(リスクを冒すまでもなく)クリアできてしまうようなゲームなので、何もしなければリスクリターンは適用しづらいです。
そこで有効なのが、
「クリアとは別に、リスクを冒すことで達成できる別の目標・動機を与える」
という方法です。

そして、その「別の目標・動機」で、次のどちらかを満たすことが重要。

  1. その目標を達成するためには、すべてのリスクリターンに挑戦しなくても達成できるぐらいのゆとりを持たせておく
  2. その目標・動機は、絶対に成功させなくてもいいようなもの

①のように、ゆとりを持たせた方がいい理由としては、ダークソウルのようなゲームで適用しづらくなる理由と同じです。
つまり、ゆとりがないと、その目標達成のために、任意ではなく、強制的にその行動を取っているという意識になってしまう恐れがあるためです。

②は、①とは違うアプローチで、「まぁ、その目標・動機のことはいいや」と思えるものにする方法です。つまり、「絶対に目指さなくてもいい目標」にする。この場合は、ゆとりがなくてもいいです。
しかし、これは意外と難しいです。というのも、その目標を絶対に達成しなきゃいけないと思うかって、遊び手次第だからです。
強いて言うなら、「残るものがある」目標は、目指してもらいやすく、「その目標を絶対に達成しなきゃいけない」と思われやすい。
逆に、「残るものがない」目標は、(良くも悪くも)「まぁ、その目標・動機のことはいいや」と思われやすい。

※ちなみに、「残るものがある」に関しては、以前に記事を書きました。興味があればそちらもご覧ください。
wada-jun.hatenadiary.com

例えば、そのリスクを冒すことで、ちょっとした時間短縮ができる(だけ)というものは、後者になりがちですね。
スーパーマリオブラザーズ」のBダッシュは、これに当てはまるリスクリターンでしょう。

スーパーマリオブラザーズ』(1985)


「クリア自体が簡単なゲームで、リスクを冒すことで達成できるクリアとは別の目標・動機を与える」というこれらの方法は、ゲームが得意な人と得意じゃない人の両方を満足させることができるという点でもよいです。
これらの方法に欠点があるとしたら、単にクリアするだけで満足してしまう人には、リスクリターンの体験を与えることができないという点ですかね。

ゲームが得意な人と得意じゃない人の両方を満足させる別の方法

ついでなので、ゲームが得意な人と得意じゃない人の両方を満足させるゲームにするため話をもう1つ。
それは、「難しい挑戦をゲームクリア(エンディング)の進捗に関わる挑戦にするなら、それをゲームクリアのために必ず達成しないといけないものにはしないこと」です。
(つまり、それも「任意の挑戦」にするべきだということ。)

例えば、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」では、「祠」というフィールドの各地に配置されているミニダンジョンのようなものがあり、そのダンジョンのをクリアすると「克服の証」というアイテムが手に入ります。そのアイテムはリンクの能力を強化するのに使えるので、祠の攻略はゲームクリア(エンディング)の進捗に関わっています。
しかし、すべての祠を攻略しなくても、ゲームクリア(エンディング)はできるので、祠での挑戦が難しいと思えば、諦めて、もっと易しい別の祠に向かってもいい作りになってます。

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(2017)

「それがクリアできないとそのゲームは詰む」という不安(ストレス)がなくなるのがいいですね。特に、エンディングまでが長いゲームでは、これは必須だといってもいいぐらい大事でしょう。

尚、挑戦に挑み始めたら、途中で諦めたくなくなることも多いですが、
その対策として、ある程度遊び手にスキルがあることを試すちょっとしたテストがその前にあり、それをクリアしたものにだけ難しい挑戦を与えるという方法がいいかもしれません。
(実際にあったかは確かではないですが、)祠の例でいうなら、「遊び手にスキルがないと到達できない場所に難しいチャレンジの祠を配置する」とかです。

(レベル上げという)作業によって突破できるようにする方法

「ゲームが得意な人と得意じゃない人の両方を満足させる方法」としては、
RPGなどであるような、「レベル上げという作業をすることで、強敵もゴリ押しで突破できるようになる」という手もあります。

ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』(2022)

この方法を採用する場合、そのレベル上げの作業自体が楽しいものになるようにしたいですね。
(そのレベル上げの作業が楽しすぎると、そっちばかりをやってしまい、強敵との対戦が手ごたえのないものになってしまうこともあるかもしれませんが。)

余談②:ゲームが苦手な人には難易度を下げるべきなのか?

ゲームが苦手な人もターゲットに含まるなら、上記のように、クリアまでの難易度を下げる(=クリアするのに必要な遊び手のスキルを下げる)のが一般的だと思います。

その方法もいいのですが、クリアまでの難易度が高いことは絶対にダメなのでしょうか?
(特に、ローグライクローグライクで簡単にクリアできてしまったら、醍醐味が失われてしまいますよね。)

私は、(特にローグライクでは)「難易度を遊び手に合わせること」はそこまで重要ではないと思っています。
(もちろん、あまりにも難易度が高すぎるのは問題だと思いますが)

「なかなかクリアできないけど、なぜか『いや、俺は(次こそは)クリアできるんだ!』といって遊び続けてしまう」
という経験をしたことはないですか?
こういうゲームって、この「達成を期待させ続ける」のが上手いゲームなんです。

遊び手が辞めてしまう原因は、
「難易度が高いから」
というより、
「達成できると期待させる続けることが上手くいってないから」
ではないかと思ってます。
(つまり、「達成できると期待させる続けるためにできることをやってないから」ではないかと。)

私が好きな「Nuclear Throne」というゲームは、「ふざけるな!!」と思ってしまうぐらい難しいのですが、なぜか、ずっとやってしまうのです。

『Nuclear Throne』(2015)

尚、この「達成できると期待させる」は3つ目の心得でもあります。そのために何をすればいいかについては次回で詳しく解説します。

自分のゲームではどのように「リスクリターン」を適用したか

それでは、「Rebel -反逆のゴブリン-」という私が以前に作成したローグライクゲームで、これらをどこに適用したかについて簡単に紹介します。

①「改造」「ドーピング」「背水の陣」などの、体力を消費する代わりに大幅に強化するコマンド

例えば、「改造」というコマンドは、
「HPを2減らし、『弾の威力』と『連射速度』を上げる。」
というもの。

また、(気づいてもらえていなかったかもしれませんが、)これらのコマンドを使っても、HPが0にはなりません。
なので、HP1のまま、「改造」「ドーピング」などのコマンドを選択し続けるという、ハイリスクハイリターンのプレイも可能です。

②敵の経験値は時間経過で消える

これも「リスクリターン」を意図してそのような仕様にしました。
経験値が時間経過で消えるようにすることで、リスクを冒してでも敵を早く倒そう・近づこうとしてもらう事が狙いです。

しかし、「経験値が時間経過で消える」ということが気づきにくかったようで、これはあまり上手くいってなかったかもしれませんね。



リスクリターンに関しては以上です。
第3回の記事に続きます。
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