ローグライクゲームを面白くするための3つの心得 1/3

ローグライクゲームを面白くするための3つの心得 目次


3か月ほど前のことですが、
「Rebel -反逆のゴブリン-」というローグライク系のゲームをUnityRoomで公開しました。


Rebel -反逆のゴブリン- | フリーゲーム投稿サイト unityroom

予想以上に多くの人に遊んでもらえ、「楽しさ」では割と高い評価を頂きました。
(2023年3月25日時点で、ページへのアクセス数が23886。「楽しさ」の評価では、5点満点中4.396点。)



そんなこともあってか、このゲームの開発で得た知見・意識したことを共有したいと思い、
今回は、ローグライクゲームを考える際に心掛けている3つのことについての解説と、それをどのように自分のゲームに適用したかについて書いてみようと思います。

いろいろ詰め込んだら結構長くなってしまったため、3回に分けて解説していきます。
1回目のこの記事では、 「コントラスト」について解説します。

*尚、ローグライクゲームを前提に話していきますが、ローグライク以外のゲームでも適用できる話はあるかと思いますので、違うジャンルのゲームに興味がある人にも読んでもらえたらと思います。

そもそもローグライクとは

本題に入る前に、ここで言う「ローグライク」の範囲をどこまで指すかをはっきりさせてください。

狭義では、ローグライクというと「不思議のダンジョンシリーズ」のようなゲームだけを指すこともあるかと思います。

トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』(1993)

しかし、
ここでは、もっと広く捉え、

  • 敵や地形がランダム生成
  • パーマデス(恒久的な死) ※つまり、死んだら最初の状態に戻るというルール

といった要素を含んでいるものは全てローグライクとします。

『Dead Cells』(2018)


それでは、本題に入ります。
結論から言うと、3つの心得とは、以下の通りです。

  1. コントラスト」をつける
  2. 「リスクリターン」の機会を与える
  3. 「達成できると期待させる」ためのあれこれ

それぞれ詳しく解説していきます。


心得①:「コントラスト」をつける

コントラスト」とは

コントラスト」とは、日本語にすると「対比」「対照」「著しい差異」といった意味です。
対になる言葉は、「グラデーション」でしょうか。

コントラストをつけるとは、どういうことかというと、

ではなく、

とすることです。

グラデーションではなく、コントラストにするのです。
「ドンッ!」と一気に変化を与える感じ。

あらゆるところにコントラストは作れる

コントラストはあらゆるところに作ることができます。
具体的には、次のような箇所です。

  • (目に見えて分かる)プレイヤーの強化
  • 進捗
  • 与えるダメージ
  • 運によるバラつき
  • BGM ※穏やかなBGMを続けた後、一気に激しいBGMに変えるとか
  • SE
  • 景色
  • 演出
  • フィードバック

などなど

具体例

まだピンと来ないかと思いますので、「コントラスト」の具体例を3つほど紹介します。

レベルアップによる強化(Vampire Survivors)

『Vampire Survivors』(2022)

説明するまでもないかと思いますが、「レベルアップ」は、敵を倒したときなどに手に入る「経験値」が一定数溜まると、レベルアップし、プレイヤーの能力値が一気に上昇するという仕組みのことです。
これにより、「プレイヤーの強化」にコントラストがつきます。

もし、レベルアップという仕組みがないと、プレイヤーの能力値は緩やかに上がっていくことになります。
そうすると、遊び手は、プレイヤーが強くなっていることに気づきにくくなってしまい、退屈なゲームになってしまうでしょう。

※尚、この記事では、「プレイヤー」を「ゲーム内のプレイヤーキャラクター」の意味で、「遊び手」を「ゲームを操作している実際の人間」の意味で使っています。

武器による強化

また、「武器による強化」という場合もありますが、これもほとんど同じで、「プレイヤーの強化」にコントラストがつきます。

『Dead Cells』(2018)

(一時的な)パワーアップ(パックマン

パックマン』(1980)

レベルアップとも似ていますが、このような「パワーアップ」にもコントラストはついています。
「必殺技」なども、これの一種だと考えていいでしょう。

会心の一撃ドラゴンクエスト

ドラゴンクエスト』(1986)

ゲームによっては「クリティカルヒット」ともいいますが、
敵に攻撃する際、低確率で、通常よりも高い威力になるというものです。
これにより、「敵へのダメージ」にコントラストがついていますね。

また、ヒット時のSEも通常のものと違うため、SEにもコントラストがついているとも言えるかもしれません。

じゃあこれは?

もう1つだけ例を挙げてみます。

Bダッシュスーパーマリオブラザーズ

スーパーマリオブラザーズ』(1985)

言うまでもないと思いますが、Bボタンを押しながら移動すれば、高速で移動できる(ダッシュできる)というものです。
Bダッシュを使うことで、画面が高速でスクロールし制御もしづらくなるので、ミスしやすくもなりますが、
上手くいけば、早くクリアできます。
ミスしてしまった場合と、ミスすることなく早くクリアできた場合で大きな差がありますよね。そのため、コントラストが生まれるわけです。

このような「(遊び手の意志で)リスクに向かってリターンを得る挑戦」のことを「リスクリターン」と呼びます。
「リスクリターン」は、「コントラスト」をつけるための強力な手段の1つなのです。
この「リスクリターン」は2つ目の心得でもありますので、次回で詳しく解説します。

コントラスト」の効果

なぜコントラストが大事なのか。
それは、コントラストをつけることで次のような効果が生まれるためです。

  • 「スリル」(=ぞくぞくするような快感)が生じる


更に、コントラストによっては、次のような効果も生まれることがあります。

  • 難易度にコントラストをつけることで、失敗の原因が分かりやすくなる
  • 運によるバラつきのコントラストをつける(=たまに幸運が訪れるようにする)ことで、次は達成できると期待させやすくなる
  • 強化、進捗にコントラストをつけることで、「今回は達成できるかも!」という期待が生じる

が、とりあえずは、「コントラスト」には共通して『「スリル」(=ぞくぞくするような快感)が生じる』という効果があるということだけ覚えておいてもらえればと思います。

余談:「コントラスト」はエンターテインメントの基本?

ゲームに限らず、エンターテインメントの多くは、驚いたり、ゾクゾクすることで感じる「スリル」(=ぞくぞくするような快感)で構成されているように私は思うのですが、
その「スリル」を体験させるための最も強力で一般的な方法が、この「コントラストをつける」という方法でしょう。

物語で「どんでん返し」と呼ばれるものも、お笑いで「フリとオチ」と呼ばれるものも、この「コントラスト」と本質的には同じで、
いずれも「ある流れを学習・予測させた後、突然その予測を裏切る(コントラストのついた)結果を与える」というものではないかと私は思っています。

コントラストをより効果的にするために

ただコントラストを作るだけだと、効果が薄いこともあります。
コントラストの効果が高めるには、次のようなことを意識したいです。

コントラストにバリエーションを持たせる

同じコントラストが続くと、遊んでいる人は最初のコントラストの変化に目が慣れてきてしまい、効果が薄れてしまいます。
それを防ぐためには、「コントラストにバリエーションを持たせる」という方法が有効です。
(特に、強化のコントラスト?)

例えば、Vampire Survivorsでは、強化のバリエーションが豊富です。

プレイするたびに強化の種類が変わることが多いので、なかなか目が慣れず、新鮮さが長続きしているように感じます。

コントラストの中に、更にコントラストを付ける

またしてもVampire Survivorsを例に挙げますが、
強力な敵を倒したりすることで、宝箱がドロップすることがあり、その中からは通常「1つ」の強化アイテムが手に入ります。

一気に強化されるため、これだけでもコントラストはついているのですが、
低確率で「3つ」や「5つ」の強化アイテムがでてくることもあります。

このように、「コントラストの中に、更にコントラストを付ける」ことで、最初の「体験しやすいコントラスト」に目が慣れても、次の「滅多に体験できないコントラスト」があることで、遊び手は後者のコントラストを期待してプレイし続けてくれるでしょう。
前者の「体験しやすいコントラスト」は、遊んですぐに得られるので、まずこれで遊び手の心をつかみ、
後者の「滅多に体験できないコントラスト」で、遊び手に長く遊び続けてもらう
といった役割の違いがあるように思えます。


特に、ゲームの中盤~終盤で、「滅多に体験できないコントラスト」を与えるのがいいですね。
(これについては、次で解説します。)

コントラストを付ける前の状態を、ある程度続ける

製作者によってデザインされたフリ

(余談でも少し話しましたが、)「ある流れを学習・予測させた後、突然その予測を裏切る(コントラストのついた)結果を与える」ということができたときに、「スリル」の気持ちよさを起こすことができます。
そのためには、コントラストを与える前の状態を十分に遊び手に記憶させておくことが大事になります。
つまり、お笑いで言うところの「フリ」が必要。
パワーアップさせるなら、その前に、パワーアップする前の状態である程度プレイさせることが重要。ゲーム開始してすぐにパワーアップしても、「フリ」がないので面白くならないのです。

せっかくなので、今回もVampire Survivorsを例に挙げて考えてみます。
このゲーム(のステージ1)では、最初の3分間は「宝箱を落とす敵」は出現しません。

3分を過ぎると、「宝箱を落とす敵」の1匹目が登場します。

そして、中盤~終盤には、その数も増えていきます。

また、このように、序盤よりも中盤~終盤ほど影響を大きくしてあげることは、
「(ソシャゲのリセマラのように)運がいい結果が来るまで、何度も序盤を繰り返すというのが最適解になってしまう」というのを防ぐことにも繋がります。

乱数によって作り出されるフリ

尚、この「フリ」を作る方法だが、単に「低確率にする」という方法でも作れます。
例えば、さっきの、宝箱から低確率で「3つ」や「5つ」の強化アイテムが出ることがあるというのがそれです。

多くの遊び手は、「1つの強化アイテム」を体験した後、「3つ・5つの強化アイテム」を体験するため、乱数が自動的に「フリ」を作ってくれるわけです。

前者は「製作者によってデザインされたフリ」、後者は「乱数によって作り出されるフリ」とでも呼ぶことにします。

後者のデメリットとしては、運が悪いと(運がいいと?)、最初から「3つ・5つの強化アイテム」という低確率の方が出てしまう可能性があることです。「フリ」のまえに「オチ」を見せてしまうようなことになり、面白さが半減してしまいます。
じゃあどっちにすればいいのか。
個人的には、Vampire Survivorsの「終盤ほど宝箱が出やすい+乱数による低確率」というように、「製作者によってデザインされたフリ」と「乱数によって作り出されるフリ」のハイブリッドのようにするのが最もいいのではないかと思います。

コントラストを一か所にまとめる

例えば、何のゲームで考えてもらってもいいのですが、「ボス戦」です。
ボス戦という中で、次のようにコントラストが集まっていることが多いです。

  • BGMが(カッコいいものに)変わる(=BGMのコントラスト)
  • 敵の強さが一気に上がる(=難易度のコントラスト)
  • 今まで見たことのないような攻撃・演出がある
  • ボスを倒すと、大量の経験値が貰える

など

『Undertale』(2015)

このように、コントラストを一か所にまとめることで、相手に与える衝撃(スリル)を最大化することができます。

更に言うと、ゲームの最終盤辺りにそのピークを持っていくのがいいです。
遊び手がゲームを遊び終えた後、その気持ちよかった体験が記憶に残りやすくなり、
そうすれば、そのゲームの評価が高くなることにも繋がりますからね。

自分のゲームではどのように「コントラスト」を適用したか

これから、「これらをどのように自分のゲームに適用したか」について話していくのですが・・・
もしお時間があれば、一度遊んでみてから読んでもらえると話が入って来やすくなると思います。
10分ぐらい遊べば、大体どんなゲームか分かってもらえるかと思います。
パソコンで遊べます。ブラウザ上で遊べるので、インストール不要。(スマホでは遊べません。)

unityroom.com



では、この「コントラスト」を具体的にどのように自分のゲームに適用したかについて話していきます。

①強化で伸ばせる5つの能力

これは、「プレイヤーの強化」のコントラストですね。

また、
先ほど紹介した「コントラストにバリエーションを持たせる」に従って、
レベルアップしたときに伸ばせる能力には以下の5つのバリエーションを持たせました。

  • 弾の威力
  • 連射速度
  • 移動速度
  • 射程
  • 武器の数

毎回、「弾の威力だけが上がる」だけだと、その変化に目が慣れてしまいますが、
「今回は弾の威力と連射速度が上がった」「今回は移動速度と射程が上がった」「今回は連射速度だけがすごく上がった」など、同じ強化なんですが、毎回変わり方は違うので、ある程度、新鮮さを維持できたのではないかなぁと思っております。

②稀に出現する強力な強化のコマンド

レベルアップしたときの強化のコマンドの中でも、コントラストをつけています。

強化のコマンドは、全てで13種類あるのですが、それぞれグレードが設定されています。

普通:「パワーアップ」「テンポアップ」「フォーカス」「ストレッチ」「食事」「仮眠」
レア:「改造」「ドーピング」「背伸び」「快眠」「お祈り」
超レア:「複製」「背水の陣」

抽選される確率は、
普通>レア>超レア
となっています。

これにより、「普通のコマンド」に目が慣れても、「レア・超レアのコマンド」があることで、遊び手は後者のコントラストを期待してプレイし続けたくなったのではないかと思います。

③稀に出現するキングゴブリン

キングゴブリンは、ドラゴンクエストメタルスライムのように、倒すと多くの経験値を落とす「美味しい敵」です。

また、遊んでて、肌感覚で気づいたかと思うのですが、序盤ではキングゴブリンは出現しません。
先ほど紹介した「コントラストを付ける前の状態を、ある程度続ける」に従っています。

更に、終盤ほどキングゴブリンが出たときの数を多くし、中盤~終盤ほど影響が大きくなるようにしています。

④マグマのゾーンで難易度を大きく上げる

難易度にコントラストをつけています。
失敗の原因が分かりやすくなる効果も生まれているかと思います。

⑤最終ゾーンにコントラストを集める

先ほど紹介した「コントラストを一か所にまとめる」に従って、
最終ゾーンで、次のようなコントラストをまとめて与えています。

  • 新しい種類の敵を一気に増やす
  • 2つ前のゾーンから物静かなBGMを続け、最終ゾーンで激しくてカッコいいBGMに変える
  • 2つ前のゾーンから洞窟のようなタイルの背景を続け、最終ゾーンでダンジョンのようなタイルの背景に変える

最終ゾーンに到達した瞬間に、少しでも「ゾクゾク」と感じて貰えていれば狙い通りなのですが、いかがでしたでしょうか。



細かいものも含めると、もう少しあるかとは思いますが、とりあえず5つの適用箇所を紹介してみました。
さて、次は「リスクリターン」の解説です。
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